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2025.07.02

スポニチアネックス

函館で誘導馬として第二の馬生を過ごすクリンチャー 子供たちの指示を素直に聞く最高の先生

 函館記念が終わり、今夏の函館開催も残り3週となった。夏の水曜新企画「夏リポ」の第3回は函館出張中の東京本社・面来陽介(34)が担当。函館で誘導馬として第二の馬生を過ごすクリンチャーを取り上げる。現役時は世界最高峰のレースである凱旋門賞にも挑戦。ファンも多かった馬の第二の馬生に迫った。

函館競馬場で誘導馬として活躍するクリンチャー

 先週の函館記念は37年ぶりに芝2000メートルのコースレコードが出た。そのレース、クリンチャーが誘導馬として出走馬たちを先導していた。

 現役時代はクラシック3冠を皆勤。皐月賞4着、菊花賞2着と好走した。18年京都記念で重賞初V、その年には凱旋門賞(17着)に挑戦。仏G2フォワ賞(6着)をステップに本番へ。世界の強豪と戦った。6歳春にダートへ転向。そこからもうひと花、ダート重賞を4勝した。砂の上を懸命に走るベテランに、ハートを引きつけられた。8歳の引退まで計36走。ラストランとなった22年名古屋グランプリの後、翌23年から函館競馬場で誘導馬として新たなスタートを切った。

 クリンチャーの世話をする函館競馬場・乗馬センターの加藤勝さん(27)は「いつでも落ち着いていて本当におとなしいです。誘導馬の中でも凄く扱いやすい馬。中心的な存在です」。クリンチャーのように競走馬から誘導馬に転身ケースは珍しくないが、初期の馴致(じゅんち)で苦労することも多い。競馬開催中、ファンファーレの音に過敏に反応してしまうなど誘導馬としてデビューできないこともあるという。しかし、クリンチャーは手がかからないお利口さん。地元函館のスポーツ少年団や乗馬経験のある学生たちも安心して乗れる存在だ。

 今でも多くのファンから愛されている。レース前のパドック周回から本馬場入場まで、どこにいてもカメラを向けられる注目の的。「飛び抜けて声をかけられることが多いですね。重賞を勝っている馬ですし、やっぱり人気があるんだなと感じます」。レース日以外には馬術競技にも積極的に取り組む。夏に開催される北海道ノーザンホースパークの大会に出場し、乗馬としても活躍。今夏には初めて道内の小学校で開催される出張イベントにも参加、PR活動にも大忙しだ。「この調子でキャリアを積み重ねていってもらいたい。競馬ファンに引退した馬がこういった形で活躍していることを知ってほしいですね」と加藤さん。土日全24レースで誘導する日もあるようで「誘導馬としてはもう一人前ですね」と感心していた。

 温厚で真面目な性格から、将来ジョッキーを志す子供たちの“教育係”にもなっている。乗馬センターチーフの木俣肇さん(52)は「浅い年数でここまでできる馬はなかなかいない。子供たちの指示も素直に聞くことができる。うちの中では一番の先生役ですね」と絶賛した。

 函館の地でひたむきに頑張るクリンチャー。第二の馬生も現役さながらの活躍ぶりだった。

 クリンチャー 父ディープスカイ 母ザフェイツ(母の父ブライアンズタイム)14年3月10日生まれ セン11歳 現役時代は栗東・宮本博厩舎所属 生産者・北海道新冠町の平山牧場 戦績36戦7勝(うち地方7戦3勝、海外2戦0勝) 総獲得賞金4億2080万4000円 馬名の由来は決定打。

 【取材後記】誘導馬としては一人前のクリンチャーだが、一昨年から挑戦中の馬術競技にはひと苦労する場面もある。世話係の加藤勝さんは「障害飛越ではまだ自信が持てなくて、(クリンチャーが)苦手だなと感じている部分もあると思います」とさらなる成長に期待している。この日もクリンチャーは函館競馬場内にある乗馬センターで、一般乗馬経験者や地元の大学生らとともに常歩(なみあし)から速歩(はやあし)のウオーミングアップ、障害飛越など1時間の調教をこなした。「運動神経がいい馬でも障害飛越ではこれまでとは違った能力が求められます。まだ結果は出ていませんが、頑張っていますよ」。伸びしろはたっぷりある。この先は乗馬でも活躍して、ファンの人気に応えてほしい。(面来 陽介)