2025.10.16

ルージュブリッツ初勝利

10月11日、東京競馬場の第1レース。気温は19度、しとしとと雨が降り、湿気を感じる中で牝馬限定の2歳未勝利戦が行われた。
 芝1600メートルのこの一戦に、中3週で臨んできたのがルージュブリッツ。エイシンフラッシュ産駒で、レッドランサー、レッドライデン、レッドライトニングらの下にあたる血統だ。管理するのは古賀慎明調教師。そして、その厩舎で開業時から20年、現在は持ち乗り調教助手として馬を支えているのが室山高啓氏である。1973年生まれの52歳。トレセン入りして28年目を迎えるベテランは、当日のルージュブリッツの様子をこう振り返る。
 「イレ込むこともなく、普段と変わらない良い感じでした」
 美浦トレセンでも1頭で運動できる優等生。ただし、新馬戦では返し馬の際に放馬した経緯もあり、やや難しい面もあるのかと思いきや、室山助手はかぶりを振って否定する。
 「他の馬が暴れたり、音に敏感だったりするので、過剰に反応してしまうことはあります。でも、基本的には素直でいい子です。調教でも行きたがるところはありますが、普段は落ち着いています」
 その言葉どおり、今回は新馬戦とは違い、パドックを1人で曳いて何も問題がなかった。
 「新馬戦で2人曳きだったのは、初めての実戦ということで、万が一に備えて調教師が観客側に立って曳いたためです。今回はメンコ(耳覆い)を着け、ハミも替えていましたから、落ち着いて歩けていました。1人でも全く問題なかったです」
 スタート前はゲートまで寄り添い、出走後はバスに乗って下馬所へ移動した。
 「スタートで煽って後ろからになったのは分かりました。バスの中ではテレビがなく、ラジオの実況だけでした。名前がまったく呼ばれないのでハラハラしましたが、ゴール手前で急に“先頭!”と聞こえてきてホッとしました」
 先頭でのゴール後は次のように感じたと述懐する。
「やっぱり良いモノを持っている馬だなぁ……」
 ちなみに手綱を取った横山和生騎手は、その走りをこう評価した。
 「序盤はすごく行きたがって苦労しました。それでも最後の瞬発力は素晴らしかったです。この先も楽しみですね」
 脱鞍直後は興奮気味にグイグイと歩いていたが、口取り写真を撮る頃には大分、落ち着きを取り戻していた。
 全てのセレモニーを終えて馬房に戻る際、ルージュブリッツは高山助手が舌を巻くほどの落ち着きを見せたという。
 「勝った後は1頭で馬房に帰ったのですが、常歩で堂々と歩いていました。その姿を見て“格好良いなぁ”と感心しましたね」
 そして、室山助手は「今回だけでなく、これからもずっとこうであってほしい」と穏やかに語った。
 新馬戦の放馬が、いつの日か「そんなこともあった」と笑って振り返られるエピソードとなるよう、ルージュブリッツのこれからの成長に期待したい。
(撮影・文=平松さとし)