2025.10.10

柴田善臣騎手

今週末、東京競馬場ではアイルランドトロフィー(GⅢ)が行われる。
このレースは、昨年まで「アイルランドトロフィー府中牝馬S」の名称で実施されていた重賞だが、今年から「アイルランドトロフィー」と「府中牝馬S(GⅢ)」の2つに分割された。
新しい府中牝馬Sは、昨年まで関西で行われていたマーメイドSの条件を引き継ぐ形で施行され、一方のアイルランドトロフィーは、名称を継承しつつ新たに第1回として開催されることになった。

2012年、このレースに出走したのがレインボーダリアだ。
当時5歳、二ノ宮敬宇調教師(美浦・引退)が管理する牝馬で、騎乗したのは柴田善臣騎手。このレースがデビュー27戦目となるレインボーダリアにとって、柴田善騎手とのコンビはこれが初めてだった。
「2年前にはナカヤマフェスタで宝塚記念を勝たせていただいた厩舎なので、話をもらった時は“相性の良い厩舎だから悪くない”と思いました」
そう柴田善臣騎手は振り返る。
レースでは好スタートを切ったものの、いったん後方へ下げる形となった。
「終始、良い手応えで追走できていました」
そう振り返るように、道中の感触は上々。前残りの展開で差し切るまではいかなかったが、ラスト3ハロン32秒9の末脚で4着まで追い上げてみせた。
「この競馬ぶりなら、距離が延びればもっと面白いと思いました」
続くエリザベス女王杯(GⅠ)に向けて、手応えを感じた柴田善騎手は、その1週前と直前の調教にも跨った。
「府中牝馬Sの時よりも動きが確実に良くなっていました。前回の状態であれだけ走れたのだから、今の感じなら相当やれると思いました」
フィジカル面だけでなく、メンタル面の良化も感じていたという。
「追い切りのゴールを過ぎても前の馬を追いかけようとしていました。府中牝馬Sの時にはそこまでのやる気は見られなかったので、気持ちの面でもかなり前向きになってきたと感じました」
迎えたエリザベス女王杯当日。雨の降りしきる重馬場、単勝オッズは23.0倍の7番人気だった。
レース約1時間前、柴田善騎手は芝のレースに騎乗し、馬場の状態を丁寧に確認していた。
「午後になって雨が一段と強くなっていましたけど、朝一は良馬場だったせいか、それほど極端に悪い印象は受けませんでした」
とはいえ道悪はレインボーダリアにとってむしろ好材料とも感じていた。
「道悪が上手なのは分かっていましたから……」
その言葉通り、北海道の洋芝をはじめ、時計のかかる馬場では好成績を残してきた。
枠順は16頭立ての15番枠。前走の府中牝馬Sの16番枠に続く外枠だったが「そのあたりは全く気にしていませんでした」と柴田善騎手は語った。
ゲートが開くと、スタートは府中牝馬S同様にスムーズだった。
「モタモタして外から脚を使う形は嫌でした。だから好スタートを切れたのは良かったです」
前半1000メートルの通過は62秒4。重馬場とはいえ、ゆったりした流れだった。
「そんな遅い流れを、掛からずに走ってくれました。調教では少し力むところがあるんですが、レースでは周りに馬がいるせいか落ち着いて走ってくれました」
向こう正面では、後方にいたエリンコートが外から一気に進出してきた。
「一緒に動くのはまだ早いと思ったので、待ちました」
結果的にこの冷静な判断が奏功した。
「その後、ふた呼吸おいてから追いかけました」
ベテランらしい落ち着いた手綱捌きに、パートナーがしっかり応えた。
「ゴーサインを出したら、すぐに反応してくれました」
最後の直線。馬場の真ん中を先頭に立とうとする単勝1.9倍の圧倒的1番人気馬ヴィルシーナが柴田善騎手の目に映った。
「4コーナーでヴィルシーナをはじめ、先頭争いしている馬たちが見えました。でも、こちらの反応が良かったので『勝てる!』と思いました」
後方から来る馬に差されるのは仕方ないと割り切り、前を掃除するように一気にスパートした。すると、ヴィルシーナをクビ差捉え、雨中のゴールを真っ先に駆け抜けた。柴田善騎手は伏兵レインボーダリアを見事GⅠ馬へと導き、また1つ、キャリアに輝かしい勝利を刻んだのだった。

 それから13年。59歳になった柴田善騎手は今でも現役で頑張っている。9月27日の中山競馬場では秋風Sを、ピースワンデュックで制し、怪我から復帰後の初勝利を挙げた。そして、この勝利は今年初勝利であり、昨年11月以来となる久々の白星となった。
レース後には「早く両目を開けられるように頑張ります」と笑顔を見せ、2勝目への意欲を語った。
大ベテラン・柴田善臣騎手の今後の活躍にも、引き続き期待したい。

(撮影・文=平松さとし)
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