2025.09.26
レッドジェルブロワ

暦の上では秋を迎えた9月下旬。しかし20日の中山競馬場にはまだ蒸し暑さが残り、夏を思わせる気候だった。気温は26度ながら、湿気のせいでそれ以上の暑さを感じさせたのである。
そんな空の下、パドックに黒鹿毛の牡馬が姿を現す。12時10分過ぎ、騎乗合図がかかり、赤地に白い星を散らした勝負服の荻野極騎手が跨ったのはレッドジェルブロワ。父はエピファネイア、母はレッドベルローズ、そして母の父はディープインパクトという良血馬だ。荻野騎手はこう振り返る。
「調教でも乗りました。気持ちやフォームにはまだ改善の余地があると思ったけど、それでいて水準の動きはしていたので、期待できると感じました」
同じ思いを抱いていたのが管理する鹿戸雄一調教師だ。
「調教時計は出ていますし、動きも良い。ある程度は走れそうです」
もっとも、手放しで期待できるかといえばそうではなかった。
「ゲート試験には早めに合格したので一旦放牧に出しました。美浦に戻してからも順調でしたし、どこが弱いという事も特にありません。ただ、体はもっと良くなりそうですし、精神面ではまだ子どもです」
初戦を迎える心境は「どこまでやれるか……」という半信半疑で見守る気持ちに近かった。
レース当日、競馬前の様子については荻野騎手がこう語る。
「パドックではイレ込むこともなく、リラックスしていました。返し馬では小さく走らすのではなく、ガス抜きの意味を込め、大きく走らせるようにしました」
16頭立ての5番枠。デビュー戦ということを考えれば、内でゴチャつく展開は避けたいところだったが、発馬は決して速くはなかった。
「体が幼く、初速から行ける感じではありませんでした。もっと速く出したかったというのが正直なところです。外から来た馬に入られて、想定より一列後ろになってしまいました」
位置取りは思惑と違ったが、道中は落ち着いて追走していたという。再び荻野騎手が振り返る。
「力むことなく上手に走っていました」
直線入口では勢いに乗り「これなら!」と思えた。しかし、そこで進路が狭くなる不利を受けた。
「思ったよりジリッと脚を使うタイプだったし、あの場面での不利は正直、痛かったです」
それでもパッタリと止まる事はなかった。そこから追われると再び伸び脚を見せた。
「あの態勢からもう一度伸びたのは立派です。今回は負けたけど、最後まで伸びてくれたので、これからが楽しみです」
荻野騎手がそう言えば、鹿戸調教師も次のように評価した。
「使われて更に良くなりそうですし、今日の内容なら将来性を感じさせました」
次走は東京開幕週の芝1800メートル。果たしてここでどんな走りを見せ、どんな未来につながっていくのか……。期待して刮目しよう。
(撮影・文=平松さとし)