2025.07.04

オジュウチョウサン平地挑戦

今から7年前の2018年。七夕当日、7月7日の福島競馬場は、前年比で138%となる1万4千人以上の観客が詰めかけた。
 お目当てはただ1つ。障害界のスーパースターが、生きるレジェンドを背に平地競走に出走してきたのだ。
 この時点で5つのJ・GⅠを含む障害レースを10連勝していたのがオジュウチョウサン。その背に初めて武豊騎手を迎えて出走したのが芝2600メートルで500万条件の開成山特別。13年11月の未勝利戦以来となる平地競走への出走だった。
 当時、7歳の名ジャンパーと日本一の天才ジョッキーを、ファンは単勝2.0倍の1番人気で迎えた。
 人馬共に人気のあるコンビだったので、この1番人気は充分に想像出来た。しかし、本当に勝つか否かは、プロである関係者の間でも意見が分かれた。「障害といえGⅠを勝つような馬なら、1勝クラスでは上位だろう」と言う人がいれば「障害と平地では流れが全く違う。過去の平地2戦(新馬戦と未勝利戦で11、8着)の成績をみる限り苦戦必至だろう」と語る人もいた。
 障害戦での主戦で、怪我で療養中だった石神深一騎手も競馬場に駆けつけて見守る中、開成山特別のゲートが開いた。武豊騎手とオジュウチョウサンのタッグは好発を決めた。その瞬間を後に武豊騎手は次のように振り返った。
 「思っていた以上にポンと出てくれたので、道中は楽に追走する事が出来ました」
 終始好位を進んだオジュウチョウサンは、絶好の手応えで、3コーナー過ぎに先頭を奪った。その時の競馬場を包んだ歓声は福島競馬場が始まって以来、初めてではないか?!と思えるくらい大きかった。そして、結局最後まで他の馬に先頭を譲る事なく、ゴールイン。それもゴール前から余裕を持って流し気味に走ると、その勇姿にスタンドは再びどよめきにも似た歓声と拍手に包まれた。
 「1勝クラスのレースとは思えないほどのプレッシャーを感じたけど、障害といえそのパフォーマンスを見ていると、普通に走れれば勝ってくれると思っていました」
 レース後、武豊騎手はこう言うと、更に続けた。
 「障害が無くてもオジュウチョウサンは強かったです!!」
(撮影・文=平松さとし)

※無料コンテンツにつきクラブには拘らない記事となっております