2025.06.26
T.J.コムフォード厩務員

先週、イギリスのアスコット競馬場では、王室主催のロイヤルアスコット・ミーティングが行われた。
5日間にわたって連続で行われるこの開催には、私もこれまで何度も足を運んできた。今年も現地で観戦したが、訪れるたびに「やはり世界一美しい開催だ」と感心させられる。
ロイヤルエンクロージャーに入場するためには、男性には燕尾服の着用が義務付けられており、女性たちはドレスと華やかな帽子で着飾っている。右を見ても左を見ても、“美しい”という言葉がぴったりの光景が広がっているのだ。
そんな華やかな開催の最終日、現地21日には、先週のこのコラムでも触れたとおり、日本馬サトノレーヴ(牡6歳、美浦・堀宣行厩舎)がクイーンエリザベスⅡ世ジュビリーS(GⅠ・直線芝1200メートル)に出走した。結果はすでにご存じの方も多いだろうが、改めて記すと、1番人気に支持され、勝ち馬に半馬身差まで迫る2着に健闘した。
一方、その前日には、3歳牝馬によるGⅠ・コロネーションSが行われた。このレースには、凱旋門賞(GⅠ)馬サルカヴァの孫で、フランス1000ギニー(GⅠ)を制したザリガナが出走しており、圧倒的な1番人気に支持されていた。しかし、そのザリガナを半馬身差で破って勝利したのは、人気薄のセルセネだった。
現地では、このセルセネを管理するJ・マーフィー調教師と、騎乗したG・キャロル騎手のコンビが共にGⅠ初勝利を挙げたとして、大きな話題となった。
しかし、個人的に目が向いたのは、セルセネを曳いていた厩務員の存在だった。
その人物は、1972年生まれで現在53歳のT・J・コムフォード氏。愛称“TJ”として知られる彼は、長年エイダン・オブライエン厩舎で働いていた人物だ。今回、J・マーフィー厩舎の馬を曳いていた経緯を本人に聞いてみると、次のように語ってくれた。
「長年勤めたエイダンのところを辞めたあと、今後を考えているところで今回の話をもらいました。ただ、正式にマーフィー厩舎に入ったわけではなく、今回は『とりあえず面倒を見てほしい』という依頼だったので、手伝ったという形です」
そんなサポートが、いきなり厩舎初のGⅠ制覇につながったのだから、まさに強運の持ち主と言えるだろう。
もっとも、彼は世界最高峰と称されるA・オブライエン調教師のもとで長年経験を積み、それ以前にもアイルランドのトップトレーナーの一人であるJ・ボルジャー調教師のもとで働いていた経歴を持っている。そうした名門厩舎での経験が、たとえ馬を曳くという一見地味な仕事であっても、大きな学びと技術として積み重なっていたのだろう。
日本の競馬ファンにとって、海外の厩務員の動向までフォローするのはなかなか難しいことだと思う。しかし、機会があればまたどこかで一流厩務員の今後の展開も紹介していきたい。
(撮影・文=平松さとし)
※無料コンテンツにつきクラブには拘らない記事となっております