2026.07.31

レッドアネモスとクイーンS

今週末、札幌競馬場ではクイーンS(GⅢ)が行われる。
 3歳以上牝馬によるこの重賞を、コロナ禍の2020年に制したのがレッドアネモスだ。この年は快晴の良馬場で行われ、レッドアネモスは最内の1番枠から絶好のスタートを決めた。しかし、そのまま先行することなく、中団まで下げてレースを進めた。騎乗した吉田隼人騎手は、レース後にこう振り返っている。
 「枠順が良かったので、理想的なポジションでレースを運ぶことができました」
 序盤から中盤にかけてはインでじっくりと脚を温存した。勝負どころの4コーナーから直線にかけては勢いを殺さないよう、徐々に外へ持ち出し、最後の直線では馬群の間を鋭く割って進出した。このコース取りについて、吉田隼人騎手は次のように語っていた。
 「少し敏感なところのある馬で、馬混みを気にするタイプでした。でも、最内の1番枠だったので、最後は狭いところでしたけど、こじ開けてやろうという気持ちで乗っていました」
 この判断が見事に的中した。直線では狭いスペースを力強く突き抜け、2着ビーチサンバに4分の3馬身差をつけて快勝。レース後、鞍上は安堵の表情でこう語った。
 「強かったですね。能力のある馬なのは分かっていたので、結果を出せてホッとしています」
 ちなみに、レッドアネモスを管理していたのは栗東の友道康夫調教師。2着のビーチサンバも同厩舎の管理馬で、見事なワンツーフィニッシュとなった。ただ、人気は対照的だった。ビーチサンバが4番人気で単勝6・6倍だったのに対し、レッドアネモスは11番人気の43・7倍。1年以上勝利から遠ざかっていたこともあり、多くのファンにとっては伏兵という存在だった。
 しかし、デビュー当時の評価は非常に高かった。
 レッドアネモスが初陣を迎えたのは2018年8月。新潟競馬場の芝1600メートルの新馬戦では、16頭立てながら単勝1・8倍の圧倒的1番人気に支持された。そして、その期待に応えるように快勝し、鮮やかなデビュー勝ちを飾った。
 続いて9月の中山競馬場で行われたサフラン賞に参戦した。初戦と同じ芝1600メートルのこのレースでは、後に重賞2勝を挙げるコントラチェックらを相手に連勝を達成してみせた。レース後、友道調教師はこう振り返っていた。
 「2〜3番手からの競馬を、と思っていたのですが、スピードがあるので逃げる形になりました。それでも緩い馬場も合っていたのか、問題なく上手に走ってくれましたね」
 その走りからは、高いスピード能力が強く印象づけられた。そこで今後の適性距離について尋ねると、友道調教師はこんな見通しを語ってくれた。
 「まだ2戦目ですからね。当面は同じ距離の阪神ジュベナイルフィリーズを目標にしますが、競馬を覚えてくれば、もう1ハロンくらい延びて、1800メートルとかでも大丈夫だと思います」
 この言葉から約2年後、レッドアネモスが重賞初制覇を飾った舞台は、まさに1800メートルのクイーンSだった。そして、この勝利の前に最後に挙げていた白星も、白百合Sの1800メートル戦。勝ち切れない時期を経ても、最も力を発揮できる条件で再び輝きを取り戻したのである。
 レッドアネモスの名を聞くたびに思い出すのは、デビュー間もない頃に友道調教師が口にした「もう1ハロン延びても大丈夫」というひと言。その見立ては、時を経てクイーンSの勝利という形で見事に証明された。競走馬の未来を見据える伯楽の確かな眼力を、改めて実感させられるエピソードであった。さて、今年はルージュソリテールらが出走を予定しているが、はたしてどんな結果が待っているだろう。

(撮影・文=平松さとし)