2026.05.15
ソダシの須貝調教師
「ゴールドシップも手掛けさせていただきましたが、もともと芦毛が好きなんです」
そう語るのは、2013年にレッドリヴェールを阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)制覇へ導いた須貝尚介調教師だ。
そんな須貝調教師が19年に出合ったのが、当時まだ1歳だった白毛馬ソダシだった。
「“真っ白で綺麗だな”というのが第一印象でした」
2歳の早い時期に入厩したソダシは、7月の函館競馬場、芝1800メートル戦でデビューを迎えた。母ブチコや、その姉ユキチャンなど、この血統はダートで実績を残してきた。しかし、あえて芝を選択した理由を須貝調教師はこう振り返る。
「先入観で“ダート馬”と決めつけたくなかったんです。実際に芝コースで調教をしてみたら、普通に走れていましたから……」
そこでオーナーと相談し、芝でのデビューを決断。この柔軟な発想こそが大ファインプレーとなり、ソダシの、後の輝かしいキャリアへとつながっていった。
新馬戦を快勝したソダシは、続く札幌2歳S(GⅢ)、さらにアルテミスS(GⅢ)も連勝。芝で無傷の3連勝を飾り、満を持して阪神ジュベナイルフィリーズ(GⅠ)へと駒を進めた。
「もともとアルテミスSを使ったのは、阪神ジュベナイルフィリーズを見据えてのことでした。だから、仕上がりは良かったですね」
そう言いつつも、指揮官に油断はなかった。
「レースを使ってきたぶん、週の半ばあたりからテンションが高くなっていました。だから当日のパドックでは、メンコ(耳覆い)を二重にするなど、いろいろと手を打ちました」
それでもゲートでは前扉に突進しそうになるなど、気性の激しさをのぞかせた。しかし、この点についても須貝調教師は周到に備えていた。
「お母さんのブチコもゲートでは苦労した馬でした。だからソダシが入厩した時から、ゲートに関しては常に気をつけてやってきました」
そうした細やかな気配りの積み重ねが、最後に実を結んだ。
直線、早めに抜け出したソダシに、サトノレイナスが内から鋭く迫った。しかし、ハナ差でその猛追をしのぎ切り、ソダシは世界初の白毛GⅠ馬という歴史を打ち立てた。もし須貝調教師の打ってきた手が、ほんの少しでも違っていたなら、この栄冠は生まれていなかったかもしれない。
その後ソダシは、翌21年の桜花賞(GⅠ)、さらに22年のヴィクトリアマイル(GⅠ)も制覇。そして23年、多くのファンに見守られながら、無事にターフを去った。
なお、冒頭で須貝調教師が語った「芦毛が好き」という言葉。その理由は、単にビジュアルの美しさだけではなかった。
「白い馬は、たとえ繁殖や種牡馬になれなくても、誘導馬や神馬として第二の道があります。延命につながるそういった“余生の可能性”が広がるから、携わりたいのです」
白く輝く馬体に宿っていたのは、速さだけではない。人に愛され、記憶に残り続ける……。それもまた、ソダシが走り抜いた“白き伝説”なのだった。
(撮影・文=平松さとし)
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