2026.06.02
スポニチアネックス
【安田記念】トロヴァトーレ 大器晩成マイラー 古馬になり1年で変わった
◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
鈴木康弘元調教師(82)がG1有力候補の馬体ベスト5をセレクトする「達眼」。「第76回安田記念」(7日、東京)ではトロヴァトーレ、アドマイヤズーム、ガイアフォース、パンジャタワー、レーベンスティールをピックアップした。中でも達眼が捉えたのはトロヴァトーレの古馬になっての成長力。楠(くすのき)のような大器晩成型が5歳にして初のG1タイトルをつかむ勢いだ。
「楠分限、梅の木分限」といいます。成長は遅いが、着実に根を張り、やがて巨樹になる楠は大器晩成型。苗から花を咲かせて早く実をつけるが、長続きしない梅は早熟型。トロヴァトーレは前者、楠の大器晩成型です。昨年の安田記念(17着)時に比べて随分たくましくなりました。厚手だった肩とトモの筋肉量がますます増え、昨年は目立たなかった上腕、胸前にもボリュームが出ました。アバラの張りも増し、腹袋にも十分な厚みがある。神社の御神木として植栽された楠の太い幹のようです。
昨年の安田記念時には「背中と腹下が長め」と述べましたが、今回は背中と腹下が短い、胴の詰まったマイラー体形に見えます。胴の骨格が縮むわけはないのにどうして?筋トレのインストラクターによると、人の場合、ウエスト周りのボリュームが増えると、足が短く見えるそうです。馬も同じ。トロヴァトーレの背中と腹下が短く見えるのは、前後肢の筋肉がボリュームアップしたからです。競走馬が急激な成長曲線を描くのは3歳とされていますが、この晩成ホースにとっては古馬になってからの1年が成長期にあたるのでしょう。
緑萌える初夏。楠など常緑樹の新葉も生い茂る季節です。葉が多くなると、幹はその上部が葉に覆われるため実際よりも短く見える。季節の植物になぞらえるなら、トロヴァトーレは初夏の楠そのものです。
青鹿毛の毛ヅヤも抜群。初夏の日差しを浴びて輝いています。楠の木材は磨きをかけると美しい光沢が出るためタンスや彫刻に用いられてきました。馬の楠は皮膚の内面からにじみ出てくるような光沢。よほど具合がいい証拠です。
身心一如。身体が充実すれば、心も充実するもの。立ち姿には充足感が漂っています。昨年の安田記念時には「立ち姿が控えめ過ぎる」と注文を付けましたが、今年は前方からの微風に尾の先を後方へ流しながら心地良さそうに立っています。風が通り抜けるたびにサラサラと心地良い葉音を届けてくれる楠のように。
唯一欠けているのは目力です。馬房で横たわっている時のような眠たそうな目。画竜点睛を欠くとまでは言いませんが、闘志を宿した目が欲しい。
樹齢1000年を超える楠の御神木がそびえる大阪・箕面の勝尾寺。“勝ち運の寺”と呼ばれるこの寺の境内には無数の「勝ちダルマ」が奉納されています。必勝を祈願しながら右目を入れ、見事、願いがかなえば左目も入れて奉納する。楠馬に力強い目が入った時、G1初勝利の願いはかなうでしょう。 (NHK解説者)
○…トロヴァトーレは東京新聞杯→エプソムCと重賞連勝中。鹿戸師は「前走は思った以上に強い内容。折り合いもついたし、乗り慣れているルメール騎手で安心して見られた」と振り返る。安田記念は昨年(17着)に続き、2年連続参戦。「この1年でいろいろ経験しているし、力をつけて筋肉量も増えた。一瞬のスピードはいいものを持っているので楽しみ」と悲願G1初制覇の期待を寄せた。
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の82歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。