2026.05.14
スポニチアネックス
河野テーラー・河野正典代表 勝ちますように、価値増すように…時代に合わせて手がける勝負服
日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社・後藤光志(30)が担当する。昨年、競馬界にスポットを当てたテレビドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」が大ヒット。作中に登場する勝負服を手がけた福島市の河野テーラー・河野正典代表(54)に話を聞いた。
福島競馬場から南に徒歩5分。閑静な住宅街に河野テーラーは店舗を構える。河野代表を含む、3人のスタッフが勝負服を中心にメンコ、騎手用のジャンパーなどを仕立てている。
生地の切り出しから、柄の配置、裁縫。基本的に全ての工程が手作業で行われている。同代表は「勝負の服なので“勝ちますように”と、それから“価値増すように”と思って作っています。勝てば血統の価値も上がるし、馬主さんやジョッキー、厩舎の名前も売れますからね」と思いを語る。
大正13年創業の老舗。昨年はドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」の制作にも協力した。騎手の佐木隆二郎役を熱演した俳優・高杉真宙らが着用した勝負服を製作。「俳優さんだけでなく、騎乗シーンで出演される演者さんが着るものなど、同じデザインでサイズ別のものを作ったり、エキストラさん用に貸し出しも行いました。うちの職人さんと楽しみに見ていましたよ。大ヒットしたドラマの一部をお手伝いさせていただけたことは凄くうれしかった」と述懐する。
創業者は祖父の正太郎さん。当初は乗馬用のズボンや背広を手がけていたが、馬主の増加とともに勝負服の依頼件数も増えていった。「当時は服飾の規定もなくて。小さい頃、(祖父から)背中に富士山の柄をあしらった勝負服を作ったこともあるんだぞ、と聞いたことがあります」
正典さんは専門学校を卒業後、旅行会社に就職。配属先の盛岡市で“縁”に恵まれた。「盛岡競馬場がある関係で、食事の場に調教師の方がいらっしゃることがあった。そこで“あの河野テーラーか”と言われることも」。その知名度を再認識したことで一念発起。99年に入社し、06年に3代目代表に就任した。「体重で苦労するジョッキーもいるので、なるべく軽い勝負服も開発して提供しています。それで騎手人生が少しでも延びれば良いなと」。先代たちから受け継いだ技術に、時代のニーズを織り交ぜて渾身(こんしん)の一着に仕上げる。
時代の変化とともに、働き方は多様化した。転機は東日本大震災が発生した11年。被災した福島競馬場の開催が中止になった一方で、蒲谷馬具店(神奈川県横須賀市)との縁をきっかけに裾野を拡大。「今は浦和の騎手は全員分、毎年1着ずつ作らせてもらっています。川崎や大井に船橋、ばんえいも半分くらいはうちの勝負服です。原発事故など暗いニュースが多く、つらかったし大変だったけど、競馬界で応援してくれる方がたくさんいて盛り上げてくれた。そのおかげでコロナ禍も乗り越えられた。悪いことばかりではなかった」と感謝の思いを口にする。
競馬界は春のG1シーズン真っただ中。31日には日本ダービー、その翌週からは2歳新馬戦がスタートする。「デビュー戦の時期はかなり依頼が来ます。オーナーさんにとっては我が子のようでしょうから、新調する方が多いですね」。今後も色鮮やかな勝負服で競馬界に貢献していく。皆さんもぜひ、職人が織りなす技に注目してみては。