2026.03.04
スポニチアネックス
【追憶の弥生賞ディープインパクト記念】04年コスモバルク 派手な勝利の裏で…果たせなかった“狙い”
地方所属のまま、JRAのクラシック制覇を目指したコスモバルク。結果から言えば皐月賞2着、ダービー8着、菊花賞4着で大望にはわずかに届かなかった。
悲願がかなうかどうかの分岐点は今思えば、この弥生賞(現弥生賞ディープインパクト記念)にあったのではないか。2番人気のコスモバルクは確かに勝った。中央3連勝。皐月賞に王手をかけた。だが…。派手なガッツポーズの裏で鞍上・五十嵐冬樹(現調教師)は漠然とした不安を抱えたまま皐月賞へと挑むことになった。
競馬史に残る1頭であることは間違いない。主催者が認定した民間育成施設で調教された競走馬がレース当日に直接、競馬場に入厩して出走できるシステム「認定厩舎制度」。地盤沈下に悩むホッカイドウ競馬が生き残りをかけて03年に導入した画期的な策だった。その制度活用第1号がコスモバルクだった。
注目を集めた馬は地元の期待をはるかに超える走りを見せた。JRA挑戦初戦の百日草特別は11頭立ての9番人気ながら向正面で先頭に立つ積極的な競馬。ハイアーゲーム(のちダービー3着)を振り切ってレコードVを決めた。
続くラジオたんぱ杯2歳S(G3)は4番人気ながら逃げ切って連勝。重賞も制した。
だが、馬主であるビッグレッドファームの総帥・岡田繁幸氏(故人)はクラシックを勝つにはまだ足りないことがあると感じていた。逃げ一辺倒でクラシック戦線を戦うことは難しい。大一番で競られたら厳しくなる。好位で折り合わせたい、と考えていた。
「ラジオたんぱ杯2歳Sの後は牧場でコスモサンビーム(朝日杯FS)と併せ馬をして折り合いを覚えさせている。コスモサンビームの後ろに付け、抜いて前に出て、また後ろに付くという調教だ」。岡田氏は報道陣の前で胸を張った。
コスモバルクのJRA3戦目、弥生賞がスタートを切った。朝日杯FS2着、快速メイショウボーラーが逃げた。予想通りだ。コスモバルクはメイショウボーラーの背後につけた。
だが“背後”といっても真後ろではなかった。メイショウボーラーから1頭分、外。五十嵐騎手はレース後にこう説明した。「メイショウボーラーの後ろに入れたいのはやまやまだった。だが、マークがきついと感じていた。囲まれるのが怖かった」
外にピタリと付けられ、勝負どころで進路を封じられるのではないか。この日は「マイネル」の馬を中心に2Rから騎乗していた五十嵐。“地方の騎手には勝たせない”。ジョッキールームで厳しい視線を背中に感じていたのかもしれない。
実際、レースの序盤でメテオバースト(安藤勝己)がそのような雰囲気を出しかけた。テイエムサンタオー(吉田豊)はメイショウボーラーの真後ろを狙いにいく姿勢を見せた。「君がこのポジションを取らないなら取っちゃうよ」。そんな感じである。
やむなく、コスモバルクはメイショウボーラーの真後ろでなく、1頭分、外に位置して、囲まれない位置で進めた。だが、それはマークから自由になると同時に、あるマイナスを引き起こした。
コスモバルクは引っ掛かったのだ。
返し馬の時から、いつになくイレ込んだ。「これは引っ掛かるかもしれない」(五十嵐)。1、2角の中間付近で一瞬、ハミを抜くと、力んで行く気を見せた。前に壁を置かないことによる弊害。レース中、五十嵐は冷や汗だらけだった。
それでも地力は一枚上だった。メイショウボーラーとのマッチレースとなった直線。懸命に追う五十嵐の激励に応え、残り50メートルで先頭に立った。前に出たコスモバルク。勝った。五十嵐は派手に左腕を上げた。ファンからは誇らしげな姿に見えたが、五十嵐の心中は“ホッとした”という気持ちがほとんどを占めていた。
「過去2戦で精神的な成長を感じていた。だが、このイレ込み具合には正直、戸惑った」。素直な気持ちを吐露した五十嵐。だが、こう付け加えた。「それでもきちんと結果を出すのだから、やっぱり強い。皐月賞に向けて、さらに自信がついた」
岡田氏は喜びを内に秘めて報道陣に対応した。道中でやや力んだことに話が及ぶと、牧場で相当量の併せ馬を積んできたことを強調し、「今回もメイショウボーラーの真後ろに付けていたら折り合えたんじゃないかな」と語った。
結果は1着。だが“馬の後ろに付けて折り合う”という重要な狙いは果たせぬまま、クラシック前の大事な一戦は終わってしまった。
岡田氏には岡田氏の狙いがあった。だが、五十嵐には五十嵐の理由があって思う通りにはいかなかった。歴史を切り開こうとする者にしか分からない重圧と複雑な事情がそこにあった。
続く皐月賞でコスモバルクは2着に負けた。勝ったのはメイショウボーラーの真後ろに付けて折り合った、10番人気ダイワメジャーだった。