2026.02.19

スポニチアネックス

【フェブラリーS】ロードクロンヌ手掛ける安部厩務員“勝負の一年”

 日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は栗東取材班の田井秀一(33)が担当。フェブラリーSに出走するロードクロンヌ(牡5=四位)を手掛ける安部雄一郎厩務員(45)を取り上げる。“勝負の一年”と位置付ける今年に懸ける思いに迫った。

プロキオンSを制したロードクロンヌと安部厩務員(撮影・亀井 直樹)

 323日ぶりの勝利の美酒に酔いしれたプロキオンS。引き揚げてきたロードクロンヌの首筋を、安部厩務員は何度もいとおしそうになでた。「やっと勝てた!とホッとしたのが一番。ゴールの瞬間は大きな声を出すわけでもなく、体から力が抜ける感じでした」。4連勝でオープン入り後、勝ち運に見放され、重賞で3→2→2→3→2着。善戦ホースのレッテルを覆した「大きな意味を持つ1勝」をかみしめた。

 担当馬とは「コミュニケーションを第一」に向き合う。人馬の間にルールを構築し、信頼関係を紡いでいく。「それをよく理解してくれるのがクロンヌ。賢くていい子なので“待て”と言えばずっと待ってくれるし、“行くよ”と言えば行ってくれます。その分、馬の動きが分かりやすくて調整が凄くしやすい」。デビューは3歳2月、初勝利も同8月の遅咲きだが、メキメキと進化。「形は格好いいけれど牝馬のようにきゃしゃだな…というのがデビュー前の第一印象。当時はまさか重賞を勝つとは思っていませんでした。ただ、成長度合いが凄くて、こちらの思っている以上に上がっていく。だから、まだ上があるのかなとも思います」と想像を絶する成長曲線に目を細める。

 安部厩務員とサラブレッドの出合いは大学の馬術部。当初は「馬の仕事に就くつもりはなかった」が、部費を稼ぐために競馬場の厩舎監視のアルバイトを始めると、生き生きと仕事に汗を流す厩務員の姿に感銘を受けた。中でも親睦を深めたのが池江泰郎厩舎の市川明彦さん。のちにディープインパクトを手掛ける伝説の厩務員だ。「市川さんが当時担当されていたのがサイレントディール。応援してずっと追いかけていました」。厚意で撮影させてもらった立ち写真は、拡大印刷して自宅の部屋に飾った。「ホースマンとしての原点」と振り返る。

 芝ダート二刀流の活躍を見せたサイレントディール。G1の頂に最も近づいたのは、絶対王者アドマイヤドンに半馬身差まで迫った04年フェブラリーS(2着)だった。その雄姿に夢を見た安部厩務員が手塩にかけて育ててきたクロンヌのG1初挑戦がフェブラリーSとなったのは天の配剤だろうか。「今年は厩務員人生において大きな一年になると思っています。神経は使いますけど、本当にありがたいこと。(万葉Sを勝った)アクアヴァーナルも担当させてもらっていて、こんなことはこの先ないぐらいのつもりでやっています」。絶好の船出となった“勝負の一年”は最初のヤマ場を迎えた。王冠を目指し、仕事人はひたむきにクロンヌと向き合っている。

 ◇安部 雄一郎(あべ・ゆういちろう)1980年(昭55)12月18日生まれ、兵庫県出身の45歳。関西大学馬術部で初めて馬に触れる。09年に栗東トレセン入りし、松田国英厩舎で21年春の定年解散まで従事した。同年開業の四位厩舎にオープニングスタッフとして加わり、現在に至る。趣味はカラオケで、曲は「ジャンルを問わず」。