2025.12.17

スポニチアネックス

【有馬記念】例年と違う「明確で強力な逃げ馬」2頭の存在

 今年の有馬記念は面白い…と毎年言っているが、今年も間違いなく面白い。有馬記念を血統面からアプローチするこのコーナーも、ネタ切れすることなく毎年続いているので、いかに競馬がサステナブルな趣味になり得るか分かるというもの。さあ血統から有馬記念の狙いを探してみよう。

逃げ馬候補の一頭メイショウタバル

 さて今年の有馬記念が他年と趣を異にする点は何かと言えば「明確で強力な逃げ馬」の存在だ。宝塚記念を逃げ切ったメイショウタバル、アルゼンチン共和国杯を逃げ切ったミステリーウェイが参戦。この2頭の近走を振り返り、血統的な解説を加えたい。

 メイショウタバルは宝塚記念を前半5F59秒1、後半5F59秒8というよどみないフラットペースで後続に3馬身差をつけて優勝。一方で天皇賞・秋では前半5F62秒0と馬場も考えるとかなりのスローで逃げ、レースの後半5Fが56秒6という瞬発力が要求される流れになり自身は後半5F56秒8を出したものの0秒2差6着に敗れた。スローでも、それなりにペースを上げても逃げられる折り合いと自在性、タフな阪神芝のやや重馬場を駆け抜けるスタミナを備えている一方、東京芝での切れ味では後れを取った。

 父ゴールドシップは菊花賞、有馬記念、天皇賞・春という長距離、超長距離G1の3勝でスタミナを示しつつ皐月賞、宝塚記念(2回)と中距離G1でも3勝。特筆すべきは中山、阪神での強さで、これこそステイゴールド父系がディープインパクト父系のカウンターパートとして成立する重要なポイント。東京での切れ味勝負では譲っても、中山でのコーナーワークと急坂を上るパワー比べなら負けない。

 母メイショウツバクロはダート新馬勝ち後は低迷し、のちに交流競走で1勝を加えダート短距離2勝。祖母はJRA芝短距離2勝、曽祖母はJRAダート短距離3勝。底堅い牝系で、母の兄には京都大賞典勝ちのメイショウカンパクもいるが、牝系からの大きな影響を見いだすには至らない。基本的に父型の主導とみれば、競馬ファンの想像力をもってすれば“逃げ馬に出たゴールドシップ”を想定した時、容易にメイショウタバルにたどり着けるはずだ。

 ゴールドシップは有馬記念に3歳から4年連続で出走して1、3、3、8着。毎年のように捲り追い込みをカマして馬券になっており、4分の3で馬券になるぐらいには適性があった。そして“逃げ馬に出たゴールドシップ”ことメイショウタバルは、ハナを切るにせよ2番手から運ぶにせよ、父以上の有馬記念適性を見いだすことも可能だろう。天皇賞・秋で見せたペースコントロール能力は、間違いなく有馬記念で有用。コーナーワークはこの父系の強みであり、コースを1周しない東京芝2000メートルより、コーナー6回で1周以上ある中山芝2500メートルの方が持ち味を生かせるのは間違いない。

 ハナを切る可能性で言えば、メイショウタバルよりもミステリーウェイの方が上だ。2走前の丹頂Sは大逃げを打ち追いつかれる形になってからの二枚腰で押し切り。アルゼンチン共和国杯でも後続を大きく引き離し、一度も13秒台にラップを落とすことなく逃げ切り勝ち。鞍上は23歳の松本大輝で、25年11月末までのG1騎乗は23年高松宮記念ディヴィナシオン(14着)の1度だけ。自身も周囲も望むのは人馬の持ち味を生かすことだろう。武豊メイショウタバルがよほどスタートを決めて行く意志を見せない限りは、松本ミステリーウェイがハナだ。

 父ジャスタウェイはG1級勝ちの産駒こそダノンザキッド(ホープフルS)、テオレーマ(JBCレディスクラシック)だけだが、米3冠皆勤(6、5、13着)のマスターフェンサー、巨漢ダート馬ヤマニンウルスなど印象的な個性派を出している。24年の種付け頭数は69頭で、すっかり中堅種牡馬だが、どこかで爆発しそうなムードはある。それゆえに根強い人気があるのだろう。現役時代は4歳の天皇賞・秋から中山記念→ドバイデューティーフリー→安田記念と4連勝。結果的にはワンピークだったがその頂上が高く、ドバイデューティーフリーのレーティングは130で、日本調教馬として初のレーティング世界一に輝いた。ミステリーウェイのピークが有馬記念に来るとしたら、なかなか愉快なことになる。

 母ジプシーハイウェイはフランスで2勝、芝1400メートルのG3ミエスク賞2着。母父ハイシャパラルはサドラーズウェルズの傑作で、英愛ダービーやBCターフ連覇などG16勝。順当に欧州的な重厚さを伝えるとみたい。配合から判断したミステリーウェイは、瞬発力勝負で分が悪いなら瞬発力勝負にしなければいい…と言わんばかりのスタミナ勝負に持ち込むペースの逃げが持ち味だ。

 メイショウタバルは武豊騎乗の逃げ含み先行馬という点で、17年有馬記念を逃げ切ったキタサンブラックが浮かぶ。キタサンブラックは3歳から3年連続で有馬記念に出走して3、2、1着。4歳時の16年有馬記念は、絶対ハナを譲らんとばかりに逃げたマルターズアポジー(15着)の2番手から運んで、サトノダイヤモンドとの叩き合いで首差の2着だった。今年のメイショウタバルをキタサンブラックになぞらえるなら、イメージとしてはこの16年有馬記念か。キタサンブラックの父ブラックタイドはディープインパクトの全兄。母は未出走、祖母はJRA4勝もうち3勝は1200メートル以下、母父は短距離王サクラバクシンオー。

 ミステリーウェイの逃げを見て92年のメジロパーマーを思い出したとしたら年季の入った競馬ファン。冠名メジロの馬は昭和から平成の競馬史において重要な存在。自家生産が基本で配合もユニークだ。メジロパーマーも両親とも冠名メジロ。父メジロイーグルはパーマーしかめぼしい活躍馬がいない一子相伝。小柄な馬体で逃げまくり“小さな逃亡者”の異名をうたわれた個性派。母メジロファンタジーの母はフランスから輸入された繁殖牝馬だ。

 メイショウタバルは父・サンデー系種牡馬×母方・短距離。ミステリーウェイとメジロパーマーは父・個性派×母・フランスつながり。だいぶ強引なので、この内容で血統的な近似性を主張するつもりはない。ただ、競馬は繰り返しの営み。10年を経て、あるいは30年を経て似た事象が起こる時、当事者が似た背景を持っていることは不思議ではないだろう。(仙波広推)