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2025.10.29

スポニチアネックス

【追憶の天皇賞・秋】99年スペシャルウィーク ダービー馬も終わったか… 指揮官は諦めていなかった

 98年ダービーの覇者、スペシャルウィーク。他にも99年天皇賞・春、99年ジャパンCも制した名馬中の名馬だが、この馬の真骨頂は、今回取り上げる99年天皇賞・秋制覇にあったのではないかと思う。

99年天皇賞・秋を制したスペシャルウィーク。武豊はガッツポーズ。右は2着ステイゴールドと熊沢

 希有な生命力、たぐいまれな勝負根性をこの一戦から見て取ることができる。語り継ぐべき一戦だった。

 前年のダービーを勝ち、武豊騎手を悲願のダービージョッキーへと押し上げたスペシャルウィーク。4歳となり、天皇賞・春を快勝。前途は洋々のはずだった。

 しかし、続く宝塚記念でグラスワンダーの前に2着に敗れた。しかも3馬身突き放されての完敗。「スペシャルウィーク、こんなもんか」という空気がわずかに漂った。

 99年秋は京都大賞典から。宝塚記念の汚名返上のためには、たとえ59キロを背負っていても負けられないところ。だが、先団から全く見せ場なく下がった。同じ4歳馬ツルマルツヨシの前に7着と完敗した。

 気持ちの糸が切れたのか。ファンの間では「ダービーを勝つという大仕事をした馬だし、役目は終わったか」という空気が支配的となった。「そろそろか…」という話が出たことを関係者も認めている。

 だが、そこでスペシャルウィークは復活できると信じる関係者がいた。白井寿昭調教師だった。引退するのは簡単だ。でも、これだけの馬。できそうなことを、もう一度やってみようじゃないか。やってもダメなら、その時に諦めればいい。

 やれることは何か。スペシャルウィークの心に火をつけること。京都大賞典は太め残り(486キロ)だった。まずはこれを絞り込んでみる。研ぎ澄まされた心身から何か新しいものが生まれるかもしれない。

 天皇賞・秋に向け、白井師が鬼となった。追い切りでは目いっぱいに追わせた。もちろん、すぐに変身などしない。最終追いでは、はるか格下に遅れた。武豊騎手は「時計が詰まってこない。もっと走っていいのに」と表情を曇らせた。白井師も、まだ復活の手応えはつかめなかった。「良くなってこない。底力に期待するしかない」と正直にコメントした。

 口ではそう言ったが、諦める気はなかった。東京競馬場への輸送後、雨でもないのに鞍の下にカッパをつけて運動させた。少しでも汗をかかせたい。体重を減らしたい。その一心だった。

 迎えたレース当日。スペシャルウィークの目つきが一変していた。馬体重は京都大賞典から16キロ減の470キロ。目標通りだった。

 装鞍した時、スペシャルウィークが武者震いしたように白井師は感じた。「目がキリッとしている。もしかしたら…いけるかもしれない」

 武豊騎手も京都大賞典の時とは雰囲気が違うことを感じ取った。後方14番手。馬を信じて決め手に懸けた。

 直線、大外からセイウンスカイとともに上がる。残り200メートル。懸命に四肢を繰り出すスペシャルウィーク。セイウンスカイを振り切る。先に先頭に立ったステイゴールドを捉えた。「何とスペシャルウィーク!」。実況がスタンドに響いた。春の天皇賞馬は何と4番人気だった。

 「ダービーの時もこんなに声は出なかった。やってくれたよ、馬もユタカも」。白井師が喜びを語った。お立ち台にいる自分の姿を全く想像できなかった指揮官。本当に凄い馬だと感心しながら、殊勲のスペシャルウィークに感謝した。