2025.10.28
スポニチアネックス
【天皇賞・秋】マスカレードボール95点 ディープの面影 3歳春に完成されていた馬体がさらに成長
◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
偉大な3冠馬の面影が残る、しなやかな体で古馬も一蹴だ。鈴木康弘元調教師(81)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第172回天皇賞・秋(11月2日、東京)ではマスカレードボールを1位指名した。達眼が捉えたのは母の父ディープインパクト譲りの柔軟な筋肉と、ひと夏越しての成長ぶり。3歳馬が盾を引き寄せる勢いだ。
鳥取県東部に面影山(おもかげやま)という標高100メートルほどの小高い山が裾野を広げています。奈良時代、都を離れてこの地に赴任した国司(役人)や万葉歌人たちがその美しい山容に都の名山、天の香久山(あまのかぐやま)の面影を重ねたのが名前の由来とか。小高い山のようなキ甲を持つマスカレードボール。その美しい姿に20年前の3冠馬ディープインパクト(母の父、19年急死)の面影を重ねているのは私だけでしょうか。
細くても柳のようにしなやかな首差し。柔らかい筋肉を付けた肩と上腕。細い首を柔らかく使ったディープインパクトの影響を感じさせます。前肢に限らず全身に備わった筋肉は量より質。柔軟で弾力性に富んでいる。父ドゥラメンテのシャープな馬体を鋼に例えるなら、ディープインパクトは柳。「柳に雪折れなし」。細身に見える柔軟なものが、実は剛直なものよりも苦難に耐えられる。「柔よく剛を制す」ともいいます。マスカレードボールもそのことわざを体現するようなつくりです。
3歳春の時点でキ甲が発達しており、完成度は高かった。その半面、後肢は寂しく映りました。皐月賞の馬体診断では「トモの筋肉がさらに強化されれば理想的」とコメントしました。今回の馬体を見ると、物足りなかったトモの筋肉が見事に発達しています。3歳春の時点で完成されていた馬体がひと夏越してさらにパンプアップした。驚異的な成長力です。しなやかな体には伸びしろがある。この先、さらに進化できるでしょう。柔軟な筋肉には疲れがたまりづらいので長距離にも対応できる。菊花賞も狙えたでしょう。もちろん、古馬相手でも…と思わせる体つきです。
若馬らしい、はつらつとした立ち姿には「頑張れよ」と思わず声をかけたくなる。前途洋々たる未来を感じさせてくれます。3冠獲りに挑んだ3歳時のディープインパクトを想起させる姿です。「天は二物を与えず」のことわざ通り、顔立ちは三枚目。でも、顔つきは二枚目です。目、耳、鼻先を一点に集中させている。
面影山には南北朝時代の長慶天皇(南朝第3代天皇)の伝説が残されています。北朝が優位に展開する中、この山の隠れ里でお過ごしになったそうです。激動の時代を生きた天皇の面影を今に伝える美しい山。激戦の天皇賞は偉大な3冠馬の美しい面影を今に伝える3歳馬の出番です。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の81歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。