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2025.09.17

スポニチアネックス

【追憶の神戸新聞杯】05年ディープインパクト 「我慢」を覚えた夏休み 英雄は再び飛翔した

 ベタで申し訳ないが、今回の主役はディープインパクト。5戦5勝でダービーを制し、武豊騎手から「英雄」の称号を与えられた後、ディープインパクトは3歳夏をどう過ごしたか、紹介したい。

05年神戸新聞杯を快勝したディープインパクト。右は2着のシックスセンス

 3冠制覇に向け、秋初戦は神戸新聞杯と決まった。いわば、王道である。そこまでの日程をどう組み立てるか。陣営が取った戦略は“在厩”だった。

 放牧に出ることなく厩舎にて過ごす。厩舎といっても栗東ではない。札幌競馬場の池江厩舎(の馬房)で英雄は夏を迎えた。いわば“避暑”である。

 避暑といっても人間のように軽井沢や清里などでボーッとするわけではない。ディープインパクトはきっちりとテーマを与えられて札幌での日々を過ごした。

 ダービーまでの疲れを完全に取り去る、場所を移動しても環境に適応する、など、テーマは多岐にわたったが、最大のポイントはこれだ。「我慢することを覚える」

 ダービーのパドックでは何度も後ろ脚を跳ね上げる「尻っぱね」をした。そして、普段から前進意欲が旺盛で、いつも前の馬を抜こうとする。そういう前向きすぎる気持ちをうまくコントロールできるようにしたいと陣営は考えていた。

 もちろん前向きな気持ちは競走馬として大事なので、抑制しすぎてもいけない。人間が許可した時だけ、グッと燃え上がるような、メリハリの利くハートにしたい。長距離戦の菊花賞を迎えるにあたり、心のコントロールができるかどうかは最重要の課題だった。

 栗東で調教を担当した池江敏行助手も札幌入り。連日、ディープインパクトにまたがった。水曜と日曜。丹念に調教時計を積み上げた。

 そして迎えた併せ馬の日。4コーナーを回り、早速、前の馬を抜きに行ったディープインパクトを、馬上から池江助手がなだめた。「まあーだ、まーだ」。ディープインパクトはおとなしく指示に従い、僚馬からわずかに遅れてゴールした。

 ディープインパクトは不思議に思ったに違いない。前の馬を抜いちゃ、なぜいけないんだと悩んだことだろう。

 その後も角馬場で自厩舎の馬にわざとディープインパクトをかわしてもらい、その反応を確認するなど、陣営は丹念に教え込んだ。まさに我慢比べだった。

 だが、どこかのタイミングでディープインパクトは理解したようだ。元々は頭のいい馬だ。併せ馬の呼吸も、やるごとにスムーズになっていったように外野の目からは見えた。

 9月を迎え、札幌競馬場を出る日が来た。池江助手は「教えるべきことは全て教え込みました」と胸を張った。

 神戸新聞杯。ディープインパクトの勝ち方は完璧だった。

 道中の折り合い。残り800メートルからの上昇ぶり。直線を迎えてからの手前(軸脚)を替えるタイミング。走りのギアを上げる際も冷静さを失っていなかった。最後は2馬身半差、完勝。ゴール前は緩める余裕がありながら、この着差だ。

 検量室前に戻ると、武豊騎手は池江助手にこう語った。「完璧。レース前のイレ込みがダービーの時より、だいぶマシになっていた。夏の成果が存分に出ていましたよ」。池江助手も胸を張って応じた。「そうやろ、完璧やろ」

 秋初戦を最高の形でクリアしたディープインパクト。菊花賞も勝って、無敗3冠を達成したことは説明するまでもない。