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2025.05.21

スポニチアネックス

【オークス】田中克師 “藤沢和イズム”でサヴォンリンナ導く!馬に寄り添い心身整える

 春のG1シリーズの水曜企画は「G1 追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。3歳牝馬の頂点を決める「第86回オークス」は大阪本社・田井秀一(32)が担当。サヴォンリンナを管理する田中克典師(37)を取り上げる。「藤沢和イズム」「距離適性」「同期の絆」の3テーマを聞いた。

オークスに挑むサヴォンリンナと田中克典調教師 (撮影・亀井直樹)

 田中克厩舎は昨年11月にJRA通算100勝を達成。中内田厩舎の最速記録(開業から3年7カ月15日)にはあと一歩及ばずも、矢作厩舎に並ぶ3年8カ月16日で早くも節目に到達した。37歳の若きトレーナーは「いい馬を育てられる調教師になりたい」と明快な目標を掲げる。毎朝くまなく管理馬に目を配り、時には声をかける。そのスタイルにふと美浦のレジェンドの姿がよぎった。

 田中克師は開業直前、東西の垣根を越え、技術調教師として藤沢和雄元調教師の下で研鑽(けんさん)した。「自分とは天と地ほどの差がある。あんな凄い人にはなれないとも思うけど、少しでも近づきたいという思いは持ち続けている。先生からは“(馬を)見ても分からないけど、見なきゃもっと分からないぞ”と教えていただいた」。少しの変化も見落とさないよう、馬に寄り添う。「G1に出るからとかではなく、どの馬にも心身ともに健康にいてもらうことが自分の仕事」と藤沢和イズムを胸に日々を積み重ねている。

 オークスはピンハイ(22年4着)以来2度目の出場。送り出すサヴォンリンナは10Fで連勝中だ。父がサトノダイヤモンド、半兄はダート重賞3勝のサンライズジパング。3歳秋以降の本格化がイメージされる血統だが、「馬体重の数字は変わっていなくても、初勝利から忘れな草賞までの間にまたがった感じが凄く良くなったみたい。思っていた以上に早く良くなってきてくれている」と成長力に目を細める。

 デビュー当初から長めの距離に適性を見いだし起用してきた。「新馬戦の前から距離はあった方がいいな、と感じていた。体形もそうだし、調教の動きを見てても、乗り手の感触もそうだったので」。忘れな草賞勝ち馬は19年ラヴズオンリーユーなど過去5頭(別表)がオークスV。距離設定と適度な間隔から、同レース組は王道の桜花賞組に次いで勝ち馬を輩出している。「反動もなかったし、状態はいい方向に推移。新馬戦で東京競馬場を一度経験しているのも心配事が一つ消せるので凄く大きい」と激走要素はたんまりある。

 同馬はデビュー以来、北村友が手綱を取り続けてきた。騎手出身の田中克師にとっては気心知れた同期。21年に落馬事故で大ケガを負った鞍上の1年1カ月ぶりの復帰戦も師の管理馬だった。「競馬学校に入学した時からずっと身近にいた存在。こうして一緒に大きな舞台に向かえるのはうれしいし感慨深い」と表情が緩む。

 厩舎のJRA通算112勝のうち、浜中と並ぶ最多11勝が北村友の手綱。特に今年はコンビを組めば12戦4勝、単勝回収率285%と驚異的な成績を残している。「信用しているし、信頼もできる。昔から動じないし、馬乗りとしての感性がずっといい。サヴォンリンナもデビュー前から“これは…”と素質を感じてくれていた。その予感、けっこう当たるので」と師が穏やかに笑えば、北村友も「僕が思っていることをくみ取ってくれるし、向こうが思っていることも僕は分かっているつもり。共通認識の中で競馬に臨めるのは強み」と呼応する。気の置けない同期タッグで挑む初めてのG1。“予感”が現実のものになるかもしれない。

 ◇田中 克典(たなか・かつのり)1987年(昭62)8月12日生まれ、福岡県出身の37歳。義父は昨年全国リーディングの矢作師。06年に栗東・山内研二厩舎から騎手デビュー。同期に北村友、現調教師の田中博師、千葉師らがいる。21年3月に厩舎開業。同14日の中京7R(ロッシュローブ)で初勝利。24年中山金杯(リカンカブール)で重賞初制覇。JRA通算937戦112勝。

 【取材後記】探究心の塊だ。とある新人記者の取材を受けた後、田中克師は「そういう視点もあるのかと勉強になった」と振り返った。素人質問と断じず、耳を傾けて糧とした姿が印象に残っている。知識を更新するため、普段の情報収集も欠かさない。北村友は「本当に馬が好きで、本当に競馬が好きなんだと伝わってくる」と評するが、その言葉の通り、まさしくホースマンだと思う。

 20年にフリーアナウンサーの矢作麗さんと結婚。競馬場やトレセンで見せる勝負師の顔も、愛らしい子供たちの前ではパパのそれに一変する。田中克師が師事した藤沢和雄元調教師のJRA通算1000勝の記念碑には「Happy People make Happy Horse」と記されている。レジェンドトレーナーが英国留学時に教わったという格言だ。「幸せな人間が幸せな馬をつくる」。家庭の“癒やし”の時間も厩舎躍進に一役買っているかも? (田井 秀一)