2025.05.15

スポニチアネックス

馬好きボートレーサーが引退馬の明るい未来を築く

 日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は栗東取材班の田井秀一(32)が担当する。山崎郡選手(35)は第一線で活躍する現役ボートレーサーでありながら、引退馬支援に積極的に取り組んでいる。活動への思いを聞いた。

ジンギの背上で笑顔を浮かべる山崎郡選手(本人提供)

 引退馬の支援に奮励する人の背景はさまざま。現役A1級ボートレーサーである山崎郡選手もその一人。馬とのつながりは師匠である丸岡正典選手がきっかけで、「師匠が馬好きで競馬場にも連れていってもらいました。地方なら馬主になれるかも、と聞いて審査を受けると通っちゃって(笑い)」。20年から園田で所有馬が走っている。

 競走馬を持てば、必ず引退の時がやってくる。「持たせてもらった子の次のステージを考えた時に、引退した馬が活躍できる場所を…と考えるようになりました。僕自身、乗馬をしますし、他にもホースセラピーであったり、馬は走ることだけが魅力の生き物ではないと思うんです」。その思いの結晶の一つが、引退馬のリトレーニングを中心に行うネクスターファーム、馬への寄付を目的としたアパレルブランドHAYLIFEとの協業。昨年末に販売が開始されたコラボパーカーには英字で「ボートレースファンと馬好きが一つになって、より明るい未来を築こう」と描かれている。販売利益は全て引退馬支援に寄付された。

 ネクスターファームは妻の麻衣さんが運営。京都府亀岡市の同ファームでは20、21年の兵庫の年度代表馬ジンギなど4頭の元競走馬がセカンドキャリアを歩んでいる。競走生活を全うした馬は心身の回復から取り組まなければならない。「ゆっくり時間をかけて誰にでも触れる馬にしていくことを目標にしています。時間はかかりますが、この子たちがこれから生きていく時間の方が長いので」と麻衣さん。ジンギは4歳になる夫妻の子供も背に乗せるほど素直で「馬は愛情をかければ返してくれる」と笑みを浮かべる。

 ただし、引退馬を取り巻く環境は依然として厳しい。寄付やボランティアに頼らなければならないのが現状だ。郡選手は「まだまだ皆さんに知られていないですし、できることを必死にやっています。そんな中でも何頭かは次のステージの居場所が見つかりました。やりがいはあります」と懸命に命と向き合う。麻衣さんは「触ったり、乗ったり、馬の良さを身近に感じてもらいたい。なかなか難しいですが、主人の力を借りて少しでも多くの方に興味を持ってもらえればと思っています」と切実な願いを吐露する。

 ジンギを管理した兵庫の橋本忠明師や、馬事文化の普及に力を注ぐJRAの渡部貴文助手(グランアレグリアなどを担当)らの協力もあり、「少しずつできることが広がっている」と夫妻は口をそろえる。劇的に実情が変わるわけではないが、一歩ずつ、着実に。この拙文が、たとえ一人であっても、引退馬支援の輪に加わるきっかけになれば幸甚の至りです。

 ◇山崎 郡(やまざき・ぐん)1989年(平元)12月8日生まれの35歳。大阪府出身。ボートレーサー。2013年5月に地元の住之江でデビュー。14年5月に尼崎で初勝利。17年2月に多摩川で初優勝。21年10月に平和島ダービーでボートレース界の最高峰レースであるSG競走に初出走。24年2月に尼崎での近畿地区選手権で待望のG1タイトルを奪取する。通算24優勝。大阪支部次代を担う実力派。27日から開幕するまるがめオールスターに、6月24日からの戸田グランドチャンピオンとSG競走の出場が決まっている。1メートル67。血液型A。

 ◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の32歳。阪大卒。道営で調教厩務員を務めた経験を持つ。19年春から競馬担当。netkeibaTVで「好調馬体チョイス」連載中。