2026.08.21

欧米競馬の差異

理由あって、先々週からイギリス、フランス、そして今週はアメリカと、国をまたぎながら競馬を見ている。
 各地でレースだけでなく、調教も見学してきた。おかげさまで30年以上にわたって世界各地の競馬場を巡ってきたので、今回訪れたアスコット競馬場、ドーヴィル競馬場、デルマー競馬場も、すべて過去に訪れたことがある。いったい何度目の来訪になるのか、自分でも数え切れないほどだ。
 それでも、何度訪れても改めて気づかされることがある。今回、イギリス、フランス、そしてアメリカと立て続けに見て回ったことで、より強く感じたのが、ヨーロッパとアメリカにおける競馬、そして調教の違いである。
 ヨーロッパでは、イギリスのニューマーケットにしても、フランスのシャンティイにしても、自然を生かした調教施設が中心となっている。広大な芝や起伏のあるコースなど、その土地の地形をそのまま利用しながら馬を鍛えていく。一方、アメリカでは競馬場そのものが調教の場となっているケースが多く、レースを行うトラックで日々の調教を積むのがスタンダードだ。
 日本のトレーニングセンターは、どちらかといえばアメリカのスタイルに近い。もちろん坂路やウッドチップ、ダートなど、さまざまな調教コースが整備されているものの、基本的には施設として整えられたコースで馬を鍛えていく形である。
 以前から両者を見比べるたびに感じていたことだが、今回のように短期間で続けて訪れてみると、より鮮明に見えてきたものがある。それは、馬そのものの所作、すなわち普段の立ち居振る舞いの違いだ。
 自然の中で調教を課されることの多いヨーロッパの馬は、総じて落ち着いている。馬場に入ってからも、ゆったり歩いている。もちろん個体差はあるし、気性の激しい馬もいる。それでも全体として、馬が自らの気持ちを前面に出してグイグイ進んでいくというより、人間と呼吸を合わせながら淡々と調教をこなしている印象が強い。
 こうした馬づくりは、ヨーロッパ競馬の主流である中長距離戦にもつながっているのではないかと思う。特に競馬の根幹距離ともいえる芝2400メートルで、道中から力んで走っていては最後まで持たない。ゆったりとしたリズムで走り、長く脚を使うことが求められる。もちろん調教方法だけですべてを説明できるわけではないが、日々の環境が馬の精神面や走りに与える影響は、決して小さくないだろう。
 一方、アメリカの馬は、良い意味で気合が乗っている。
 調教に向かう段階から前へ前へと行こうとする馬が多く、馬が行きたがるのを鞍上が必死になだめているような光景も、あちらこちらで見られる。
 もちろん、これも良い悪いの話ではない。アメリカ競馬では2400メートル級のレースはほとんどなく、短距離から中距離を中心に競われる。スピードと前進気勢を高いレベルで引き出すことが求められる競馬ならば、こうした馬の姿も理にかなっているのだろう。
 つまり、どちらが優れているという話ではない。それぞれの競馬が求めるもの、それぞれの土地で積み重ねてきた調教の文化が、馬の態度や所作に見事なまでに表れているのだと思う。
 そして、そんな光景を見ながら改めて考えたのが、日本馬の凱旋門賞(GⅠ)挑戦である。
 日本のホースマンにとって大きな夢の一つである凱旋門賞まで、今年もいよいよ1カ月半ほどとなった。舞台はフランスの芝2400メートル。日本の競馬も近年は世界と互角に戦える馬を数多く送り出しているが、ヨーロッパの2400メートル路線となると、なかなか結果に結びつかない。
 もちろん、「欧州のような自然の施設で調教をすれば凱旋門賞を勝てる」などと単純に言う気はないが、そういった“ハードウェア”の部分も大きく影響しているは間違いないと思う。今回、ヨーロッパからアメリカへ渡って、改めてそんなことを思った。
(撮影・文=平松さとし)
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