競馬の発展に著しい貢献があったサラブレッドやホースマンがJRAにより顕彰される「競馬の殿堂」は、これまでに34頭の名馬・名牝、尾形藤吉師を筆頭に10人の調教師、野平祐二さんなど6人の騎手が「殿堂入り」の栄誉に浴しています。「顕彰馬」としてイの一番に登場するクモハタは、オーナーの加藤雄策さんによれば「馬主として一度もクモハタのレースを楽しんだことはない。満足な状態で出走したことがなかったからだ。この面倒な馬をどうにか競走馬として育ててくれた調教師、騎手、馬丁諸君に心から感謝している」そうです。それでもダービーを勝ったのですから、持って生まれた天賦の才は破格だったのでしょう。現役引退後に秘めたポテンシャルを大爆発させ、輸入種牡馬の独壇場だった時代に、6年連続でリーディングサイアーに輝くなど、ディープインパクト以前の内国産種牡馬としては最高の実績を残しています。競馬の奥深さを感じさせる逸話です。

 

その名馬の列に加わるには、現在は競馬記者200人余りでおこなう選考投票で投票者全体の4分の3以上の支持が必要とされています。なかなか高いハードルです。今年はキングカメハメハが1位の票数を集めましたが、140票とボーダーの153票には届かず、栄光は来年以降に持ち越されました。とはいえ、来年以降は超名牝アーモンドアイ、発展途上クロノジェネシス、三冠馬コントレイルと有力候補が続々と選考戦線に参入してきますから、キングカメハメハといえども楽な戦いにはならないでしょうね。

 

2位は今年も牝馬のブエナビスタでしたが、この馬は非運というか、2位が7回、3位が2回と毎年のようにあと一歩で涙を飲んでいます。この馬が顕彰されれば、幾度となく名勝負を繰り広げたレッドディザイアなどもファンの脳裏に深く刻まれることになり、喜びの輪がさらに広がります。また、ブエナの父スペシャルウィークも「殿堂入り」に関しては非運の連続でした。同時代にエルコンドルパサー、グラスワンダーという歴史的名馬が顔を揃えており、顕彰馬投票では票が割れてどの馬も選出基準に達しない悲劇が繰り返されました。スペシャルウィークは2位7回、3位6回と娘以上の残念賞続きでした。クモハタが種牡馬貢献を評価されたように、優秀な繁殖牝馬も受賞の対象とされています。しかしこの分野での「殿堂入り」はまだなく、スペシャルウィークの娘でいえば名競走馬にして名繁殖牝馬シーザリオなどにも、残念ながらまだお呼びが掛かっていません。

 

ファンの心に棲み続けるヒーローやヒロインが選考投票の壁という“非運”に泣かされるのは、競走カテゴリーの細分化傾向や人々の価値観の多様化傾向が、選考における分散化現象を生んでいるからでしょうが、あたら名馬たちを歴史のエアポケットに埋もれさせるのは残念です。もう一度、考え直すための議論を深めたいと思います。