ウンベルト・リスポリをご記憶でしょうか?早くからイギリスに主戦場を移した先駆者ランフランコ・デットーリや、ミルコ&クリスチャンのデムーロ兄弟と同じように世界の競馬シーンを渡り歩いているイタリア出身ジョッキーです。10年ほど前に短期免許で来日したキャリアもあり、当時はルーラーシップで日経新春杯、トゥザグローリーで京都記念を勝ち、キンシャサノキセキのラストランとなった高松宮記念でG1を制するなど目覚ましい活躍が深く印象に残っています。

 

その翌年から香港に移籍。そこへ遠征したルーラーシップの陣営から騎乗依頼を受け、クイーンエリザベス2世Cでは完璧と断言できる手綱捌きで、勝利の女神に縁遠かったルーラーに生涯最初で最後のG1の勲章をもたらし、超良血馬の種牡馬入りに大きく貢献してくれました。一生を決定づけるような、とてつもなく重い1勝だったと思います。ルーラーシップ自身、関係者にとってウンベルトには感謝しかない気持ちでしょうね。

 

ご存じのようにイタリアは経済破綻の瀬戸際に追い込まれ、競馬も賞金未払いが続く中でグレードレースが次々と格下げされ、一昨年から遂にG1レースが消滅するなど存亡の危機に瀕しています。こうした苦境に直面して、デムーロ兄弟の兄ミルコは日本、弟クリスチャンはフランスとトップジョッキーは騎乗機会を求めて世界に散っています。ウンベルトもイタリアではリーディングジョッキーの常連で、日本での短期免許に続いてフランスや香港に活躍の場を広げて来ました。しかし香港ジョッキークラブとの契約を終えてから、その後しばらくは消息が途絶えがちになっていました。

 

ところが先週、アメリカから久しぶりに便りが届きました。何とウンベルトは鞭一本を片手に、はるばる太平洋を越えてアメリカにたどり着き、昨年から西海岸のメッカ・サンタアニタパーク競馬場を拠点に騎乗しているのだそうです。伝えられた消息は、わずか20枠の出走権を争う「ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービー」シリーズの最重要レースとして知られるG1・サンタアニタダービーで、それまで無名だったロックユアワールドに乗り、鮮やかに逃げ切ってダービー切符を一発で掴んだという嬉しいものでした。

 

ロックユアワールドは芝のレースを2連勝して初ダートのサンタアニタダービーにチャレンジしたのですが、ジョン・サドラー調教師はハイレベルな戦いに備えて「厳しいマークを受けないように」との戦略的判断で、注目度の低い芝のレースを敢えて使ってきたようです。ウンベルトにとっても初めてのケンタッキーダービーになりますが、世界を流離(さすら)う“仕事人”の心意気を、世界中の競馬ファンの心に深く焼き付けて欲しいものです。そしてコロナが落ち着いたら、また短期免許で日本にもやって来てください。