一頭の名馬の出現が、競馬の盛衰を左右することがあります。

ほとんど絶滅危惧種状態と思われていた超長距離カテゴリーの

競馬を今に蘇らせたのはイギリスのジョン・ゴスデン調教師が

手塩にかけたストラディヴァリウスの功績です。先日、発表の

ロンジン・ランキングでは世界2位の座に叙せられた強豪です。

超長距離馬がランキング上位に名を残すのは本当に久しぶり!

この小柄な馬が、いかに傑出した名馬であるかを物語ります。

 

1780年にダービーが創設され、クラシックを中心とする現在の

競馬体系が確立されていく中で、当初の内は「 2400mなんて

短距離でチャンピオンを決めることに意味があるのか?」など

と揶揄されるほど、超長距離レースが盛んだったと言います。

世界初のクラシックが超長距離のセントレジャーで、日本初も

菊花賞が最初だったことを思えば、時代の気分が分かります。

 

ところが時代の流れは、スピード化や早熟化が進み、マイルや

中長距離のレースに人気が移っていき、いつしか超長距離戦は

徐々にレーシングカレンダーの片隅へ追いやられて行きます。

イギリスでは超長距離のセントレジャーが嫌われるようになり

栄誉ある「三冠」は、事実上は死語と化しつつある現状です。

スピードや早熟性への需要急騰で、超長距離馬の種牡馬価値が

下落するようになったからです。イギリスやアイルランドには

障害用種牡馬という市場が広範に存在し、まだマシなのですが

それのない日本の場合は、かなり悲惨な状況になっています。

 

が、イギリスのホースマンは超長距離を見捨てませんでした。

3年前に伝統のG2グッドウッドC 3200mをG1に昇格させると

翌年にはグッドウッドCとアスコット名物ゴールドC 4000mを

含む超長距離4戦すべてに全勝した馬に、100万ポンドと破格の

ボーナスを贈る「ステイヤーズ・ミリオン」を発足させます。

こうした競馬イノベーションへの情熱に呼応して出現したのが

稀代のマラソン名馬へと成長するストラディヴァリウスです。

 

彼は3歳時に第1回のG1グッドウッドCで古馬をなぎ倒します。

翌4歳時は連戦連勝でステイヤーズ・ミリオンの覇者に君臨し

昨年5歳時はステイヤーズ・ミリオン連覇に加えて、古来から

国民的人気を集めて来たゴールドC、グッドウッドC、さらに

ドンカスターC3600mの「超長距離三冠」を24年ぶりに達成し

破竹の10連勝!これなら人気が沸騰しないわけがありません。

6歳を迎えた今季もゴールドCを楽走で10馬身ちぎるなど順調で

次なるターゲットは、2400m路線の王座になるのでしょうか?

試走のコロネーションCでは3着と目標にメドを立てています。

 

話が前後するようですが、ストラディヴァリウスは17世紀から

18世紀にかけてイタリアで制作された弦楽器群で、その中でも

ヴァイオリンはオークションを通じ12億円余で落札されるなど

世界中の演奏家たちの垂涎(すいぜん)の的となっています。

王侯貴族の高貴なたしなみから大衆娯楽へと発展したあたりは

なんだかサラブレッドの世界に似通った歩みを刻んでいます。

超長距離戦の奥深い愉しみを蘇らせたストラディヴァリウスが

すべてのファンの、知的好奇心・冒険心を奮い立たせることで

競馬の魅力をさらに押し広げてくれると期待しています。