競馬は「優勝劣敗」の理想を原則に、強い馬は強い馬と戦わせ
弱い馬は弱い馬同士を競わせる仕組みで番組が編成されます。
競走馬自身やレースそれ自体の価値評価は、この結果によって
決められ、その積み重ねが伝統や品格を築き上げていきます。
1971年にヨーロッパで発足した「グループ制」(遅れて導入の
北米、日本はグレード制)が、競馬が本来持つ「優勝劣敗」の
価値体系を誰にもわかりやすく流布することに成功し、競馬は
巨大な価値ピラミッドとともに産業として大きく発展します。

日本における価値体系は、長い間、ダービーを頂上に仰ぐ三冠
レースと牝馬の桜花賞、オークスを「五大クラシック」として
古馬同士で争う春秋天皇賞、有馬記念を加えた「八大競走」の
尊称で呼ばれる最高峰として形づくられて来ました。
後にジャパンC、宝塚記念、牝馬三冠最終戦に位置づけられる
エリザベス女王杯(後に古馬混合に変更)が名誉ある序列へと
階段を上り、春秋同距離で一度勝ったら出走権を失う勝ち抜き
制度があった天皇賞を一括りにして「十大競走」となります。

1984年にJRAはグレード制導入に踏み切り、これら十大競走に
天皇賞秋が距離2000mに短縮され「十大競走+1」を最優先に
伝統のマイル戦=安田記念、新設マイルチャンピオンシップに
2歳の朝日杯3歳S(現朝日杯フューチュリティS)と阪神3歳S
(後に阪神3歳牝馬S、現阪神ジュベナイルフィリーズ)などの
計15レースが名誉ある日本最初のG1として格付けされました。
現在も日本競馬の価値を象徴する基幹競走に君臨しています。

目立つのは、2200m以上の長距離やそれを超えるカテゴリーに
属するレースが、「十大競走+1」の11レース中8レースを占め
15レース全体でも過半数を超えていることです。
軍馬育成が競馬振興の基本コンセプトだった戦前からの風潮が
頑健で持久力豊かな長距離馬に高い価値を認めたのでしょう。
G1の選定においては、無論のこと、国際基準に基づいて行われ
日本競馬の歴史から、レースの伝統や品格、ホースマンの思い
ファンの熱意まで、さらに施行時期や競馬場のバランスなどが
丁寧に検証されたでしょうが、パーフェクトはありませんから
気の毒な結果になったのはスプリントとダートの分野でした。

現在でも各分野の最優秀馬を顕彰するJRA賞には、マイラーと
スプリンターを「最優秀短距離馬」として一括りにする伝統が
残っていますが、当時のスプリンターズSはG3格付けに過ぎず
G2を経てG1昇格は、やっと90年のことでした。ダート部門も
G1の登場は、97年にようやく昇格を果たしたフェブラリーS、
00年創設されたジャパンCダート(現チャンピオンズC)まで
待たねばなりませんでした。現在もダートのトップホース達は
交流重賞に頼らずを得ず、幸いに興行的には大成功してますが
「優勝劣敗」の大原則からは、少し外れるような気もします。

世界中で評価が高まっている日本生産&調教馬ですが、一方で
苦戦が続いているのはスプリントとダートのカテゴリーです。
価値体系の中枢としての基幹競走から漏れた過去の苦い歴史が
レベル向上に影響を及ぼすものなのでしょうか?早かれ遅かれ
改革は必要でも、とは言え無闇に焦ることでもないでしょう。
競馬の時計は、恐ろしく手間暇をかけて進むからです。
生産に始まり、育成や調教技術、レースに至るまで、一歩一歩
自らの価値を高め、分野の地位を向上させるしかありません。
さて今週は、その基幹競走の一つ、安田記念が開催されます。
かつてなかった史上空前の豪華メンバーがゲートインします。
どんな価値を新たに生み出すのか?ワクワクが止まりません。