日本調教馬が枕を並べて討ち死にした今年の凱旋門賞ですが、
1969年、ちょうど50年前にスピードシンボリが挑戦して以来
延べ26頭が26連敗中というのが日本関連馬の凱旋門賞実績の
すべてです。とくに近年は、13年オルフェーヴルの2着以後は
掲示板にすら載れず、2桁着順の山を築く惨敗が続いています。

今回は怪物エネイブルですら、スタミナを失い失速するような
異様に重くなった馬場に敗因を求めるコメントが多いのですが
これが全部でないでしょう。それ以外どこに原因があるのか?
調教師の経験なのか?騎手の技術なのか?環境の変化を含めた
厩舎スタッフ陣と馬との、コミュニケーションの問題なのか?
恐らく、そのすべてが少しずつ足りなかったのだと思います。

そして日本の競馬界において、長年もっとも足りなかったのは
オーナー(馬主)と、そのリーダーシップの在り方でしょう。
ご承知のようにヨーロッパを中心に構築される海外にあっては
オーナーの地位が非常に高く、下世話に言えば「カネも出すが
クチも出す」タイプが多く感じられます。と言うよりはむしろ
オーナーの責任としてリーダーシップが求められるからです。
有力オーナーは、ほとんが例外なくオーナーブリーダーとして
自らが理想とする馬を目指して、“馬づくり”から参画しており
レース選択から出否まで、強いリーダーシップを発揮します。
凱旋門賞に勝ちたいと思えば、種付けの段階から、いや母系の
吟味からスタートさせるのが、彼らが頑と譲らない流儀です。

今年の凱旋門賞で、エネイブル打倒のジャイアントキリングを
果たしたヴァルトガイストのオーナーブリーダーは、ドイツの
名門アーマランド牧場ですが、彼らの“馬づくり”の基本は代々
築き上げてきたドイツ牝系にアイルランドやイギリスの超一流
種牡馬を交配するものです。こうして父ガリレオ、母の父には
モンズーンのヴァルトガイストが誕生、彼は凱旋門賞を過去に
7度も制覇しているフランスの名伯楽アンドレ・ファーブル師の
下で、経験豊かな厩舎スタッフの世話を受け、レースになれば
ハイレベルなフランスのジョッキー界にこの人ありと知られる
若き天才ピエール-シャルル・ブドー騎手に手綱を託されます。
凱旋門賞を勝つというのは、多分こういうことなのでしょう。

これらの多様な積み重ねの、恐らくすべてが少しずつ足りない
というのが日本調教馬が置かれている現状であり、凱旋門賞で
未だ勝てない遠因となっているのだろうと思わさせられます。
しかし日本にもそうした真のホースマンは少なからずいます。
「馬づくりは情熱。馬は情熱で走るんだ」が口癖だったという
和田共弘さんはその一人です。その思い出話を、奥様に伺った
ことがあります。「世界の高みがどこにあるか見届けたい」と
オーナーブリーダーとして熱い想いを胸にスピードシンボリと
野平祐二騎手とともに凱旋門賞をはじめ、海の向こうの数々の
ビッグレースに挑み続け、三冠馬シンボリルドルフを輩出した
稀代の名ホースマンは、死の直前まで「アイルランドに牧場を
買うぞ。そこで世界一の馬を創るんだ」と熱く語り続けていた
そうです。世界と戦うには世界に通用するホースマンが存在し
強いリーダーシップを奮うことが必要なのかもしれません。