芝でもダートでもない競馬

気のせいなのでしょうか?いわゆる“芝馬”がダートに戦場を代えて、見違えるような走りを披露するケースがヤケに目立ちます。昨年暮れのG1チャンピオンズCをジュンライトボルト、東京大賞典をウシュバテソーロが勝ちましたが、両馬とも最近までダートには見向きもせず芝だけを専門に走っていた馬です。ジュンライトボルトは1着賞金1000万ドル≒13億円のサウジCの優先出走権をゲットしましたが、一昨年の勝ち馬ミシュリフは当時すでに仏ダービー覇者で後にG1勝ちを重ねたトップクラスの芝ランナーでした。競馬が進化の高みに昇り洗練されて来ると、各国・各カテゴリーの頂上を競うレースともなると、単純に馬場(芝orダート)適性といったことを遥かに超えて、スピードやパワーのポテンシャル(いわば“底力”でしょうか?)勝負になって来るんでしょうね。極論すれば、芝で勝ち切るスピードがなければ、ダートの頂点を極めることは難しい時代と言えるかもしれません。逆にダートから芝に宗旨替えしてジャパンCのジャイアントキリングを成し遂げたヴェラアズールのように、ダートを制圧するパワーがあったから一瞬の隙間をブチ破った野性の芸当が可能だったとも言えそうです。

この日曜日、レッド軍団に今年の一番星を輝かせてくれたレッドファーロもそういう経歴の持ち主でした。デビューから芝の長めの距離に特化して使われパワフルな末脚を武器として来ました。しかし基幹距離最長の2400mを超えるような超長距離路線は番組に恵まれません。ファーロのパワフルな末脚を活かすには、ダートのパワー勝負という選択肢がある、と松永幹夫調教師は考えたようです。松永さんといえば、最近ではギルデッドミラーの名が浮かびます。ダート転向3戦目のG3武蔵野Sで重賞初勝利に輝き、今週のG3根岸SからG1フェブラリーSへと上昇一途の期待の星です。芝のG1NHKマイルCでも3着したほどのポテンシャルの持ち主であれば、ダートの走りに何の問題もないとなれば、舞台は変わっても大きく羽ばたいて不思議はないはず、そう前向きに考えたのですね。ご存じのようにギルデッドミラーは、繁殖入り直前でフェブラリーSがラストランになりそうですが、ダート競馬の新局面を切り拓いた功績は、長く伝えられるでしょう。

レッドファーロの“ダート・チャレンジ”の決め手は血統にあった気もします。母は南米アルゼンチンの活躍馬で、当地最大のビッグイベントとして人気の高いではエストレジャス大賞での3着入線の経歴はなかなかのものです。このシーズン末を飾る大一番は、カテゴリー毎にチャンピオンを争うアルゼンチン版ブリーダーズカップシリーズの風情ですが、隔年で芝とダートの開催を繰り返す趣向が盛り込まれています。サラブレッドの能力を測るのに、芝とダートが分け隔てなく同等の価値を有する物差しとして用いられています。背景には、この国の競馬の成り立ちと独自に形成されて来た市場特性があります。アルゼンチンの芝はヨーロッパなどと比べると硬めに造成されていることから、アルゼンチン産馬の日本適性が高さは有名ですが、同様にダート適性の優秀性も折り紙つきです。アルゼンチンの一流馬はアメリカを中心にトレードされ、ダート王国でも遜色のないキャリアを残しています。こうしてアルゼンチン産馬は世界中に通用する市場性を獲得し、アメリカ、アイルランド、オーストラリアなどを追いかける馬産大国として着実な成長を続けています。

こうした松永調教師のような先進的な考え方や取り組みが陽の目を浴びるようになったのは、つい最近というか、むしろこれからの競馬界の最大のテーマの一つに浮上してきました。ご存じのように競馬の理想のあり方を、中央・地方の区別なく探求しようという『全日本的なダート競馬の体系整備』がスタートを切りました。2歳競馬は今シーズンから、3歳以上については来年から改革の途に着き、一例を上げれば新たに再編される三冠レースを中心に据えたダートクラシック体系は中央や地方といった壁が撤廃されます。こうした制度的な改革への確かな胎動が、松永師のような先進的な取り組みを後押ししているのでしょう。馬主さんも偏見なくダート競馬と付き合えるようになります。そこに賞金や手当の増額が付加されるなら尚更ですね。いま進められようとしていることは、タイトルに謳われる『ダート競馬の体系整備』ということではなく、競馬それ自体の改革への強い意志が滲みます。馬にとって、すべてのホースマンにとって、ファンみんなにとって競馬が素晴らしいものになっていけば、そう思います。
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