クイーン・ロスの時代

昨日のイギリスは国中で競馬は開催中止、飲食店なども休業と国民すべてが喪に服し、その一人一人が万感の敬意をこめて女王を悼み、お別れを告げました。ウェストミンスター寺院での厳かな国葬を終えロンドンを後にした女王は、週末の居城として愛用されたウィンザー城へと向かい、ロイヤルアスコットには馬車でお出かけになったロングウォークを通って、心安らぐお住まいにお帰りになりました。ウィンザー城からアスコット競馬場に向かう“ロングウォーク”と名付けれられた、世にも美しい一本道を下る女王の馬車列は、ロイヤルアスコットが生んだ無数の名勝負とともに忘れられません。ご冥福をお祈りします。

女王の死は、イギリス一国にとどまらず世界中のホースマンにとって、心にポッカリ空洞が空いたような無常観をもたらしています。競馬の世界においても女王はそれほど特別な存在でした。余人に真似のできないクリエイティヴな事績の数々を成し遂げたからです。女王は、見た目にはただの石ころのように映る燻(くす)んだ原石を、光り輝く宝石に磨き上げる“ブランドの錬金術師”でした。アッサリ言えば“馬の駆けっこ”に過ぎない競馬に、生命を吹き込み、さまざまな価値を新たに創造し、ひつつの文化として育て上げました。もちろん女王おひとりの功業ではありませんが、女王がいなければ成就されなかったことも、たくさんあります。たとえその場に臨席なさらなかったとしても、女王の存在が人々の支えとなり、前進へのかけがえのないモチベーションとなりました。女王亡きこれからは「クイーン・ロス」問題が、喫緊かつ超難解な課題としてホースマンを悩ませ苦しませることになりそうです。

ロイヤルアスコットは言うに及ばず、世界中にエリザベス女王の薫陶や影響を受けた名レースは、女王の宝石箱と同じように無数の輝きを放っています。本国イギリスは、シーズンを締めくくるマイルの頂上戦クイーンエリザベス2世Sが有名ですが、イギリスとのご縁が深いオーストラリアはクイーンエリザベスS、香港はクイーンエリザベスCと中距離王決定戦、アメリカでもクイーンエリザベスチャレンジCが行われ、カナダではダービーにあたるクイーンズプレートが栄誉の最高峰に位置しています。日本は、ご存じエリザベス女王杯が女王来日を記念して創設されていますね。これらのレースが先に述べたように、それぞれの国でホースマンの競馬興隆へのモチベーションとなり、心の支えとなって来たのは無論です。「クイーン・ロス」の今後は、レース名を変えるのか、“メモリアル”仕様にするのか悩ましいところですが、これ一つとっても大変な難題です。改めて女王の存在の大きさを思わずにいられません。

ここ数年、競馬界は偉大なホースマンを少なからず失いました。史上最強の凱旋門賞馬と言われるダンシングブレーヴを所有し、その最強馬を超えるレーティングを獲得した怪物フランケル、驚異の瞬発力を見せつけたキングマンなどを生み育てたジュドモントファームの総帥ハーリド・アブドゥラ殿下に続いて、忘れ形見バーイードがフランケルの背中を追うシャドウエルスタッドの巨魁ハムダン殿下などの逝去に世界中のホースマンたちが、女王同様の言いようのない深い喪失感を味わってきました。種牡馬の領域では、ヨーロッパの帝王ガリレオが去り、日本から世界進出を果たした常勝将軍ディープインパクトも現2歳がラストクロップとなっています。時代が音を立てて変わりはじめているのでしょうか?「クイーン・ロス」「偉人ロス」の時代には何が起こるのか?それにホースマンはどう立ち向かうのか?そんなことを考えさせられたエリザベス女王の国葬でした。
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