吹き寄せる風が頬に生暖かく感じられるようになると、いよいよ種付けが本格化するシーズンを迎えます。生産地では配合相手選びに、最後の最後まで知恵と勘を絞り出すのに余念がありません。その選定のテーブルに載せてもらおうと、競馬場ではサラブレッドたちが渾身のラストショーを展開しています。JRAでは先週末、現3歳世代にとって“最後の新馬戦”がおこなわれました。芝は今月初めに終わっておりダートのみの施行でしたが、東京は一時の不振から脱却したオルフェーヴルのヴィントミューレ、阪神は人気のタピットの血を引くクリエイター2に4代母がシンコウラブリイという母系を配合されたクインズバジルが晴れて勝ち上がりました。懐かしい名牝が代を重ねて、もう玄孫(やしゃご)が競馬場を走っているのですね。月日が経つのは早いものです。父馬にとっても開幕を迎える種付けシーズンに希望が膨らみました。

 

色々な意味で世界中の熱い注目を浴びたのは、サウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場で開催された世界最高の総賞金2000万ドル≒21億円を争う第2回サウジCでした。ダート王国アメリカから来て人気を集めているシャーラタンとニックスゴーが意地の火花を散らし、ビッシリ馬体を接して熾烈な先行争いを展開する直後で脚を溜めていたミシュリフが、先に抜け出したシャーラタンと直線を凄絶に叩き合い、ゴール前で力強く競り落として1着賞金1000万ドル≒10億円余を獲得しました。ミシュリフは名馬ドバイミレニアムが遺した唯一の後継ドバウィの初年度産駒で、日本に来ている種牡馬マクフィ、彼のこれも初年度産駒だったメイクビリーヴのまたまた初年度産駒にあたります。ほとんど奇跡と言うしかない血の繋がりです。

 

サウジC同日には、お隣のカタールでもビッグレースが開催され、メインレースのジアミールトロフィー2400mをヌーアアルハワという地元馬が勝ちました。華やかすぎるサウジの陰に隠れて地味に映りますが、ヨーロッパG1との比較で十分に高額と胸を張れる賞金ですね。ヌーアアルハワはドイツやフランスで重賞勝ちのある実績馬で、カタールへ移籍してからも存分に期待に応える働きぶりを見せています。世界は狭いもので、実はこの老雄もマクフィ産駒でした。マクフィは一夜にして、かつての輝きと名声を取り戻した印象すらあります。

 

ヨーロッパを中心に買い戻しのオファーがあっても驚けませんが、それ以前に日本での人気が再燃しそうな雲行きです。現3歳世代が日本における初年度になりますが、産駒たちは芝もダートもコンスタントに走り、日高の牝馬群が相手であることを考えれば十分に合格点が与えられそうです。種付け料が250万円と高からず安からずで、良血牝馬を集めるには中途半端な設定という気もしますが、世界からの高い再評価を追い風にひと踏ん張りしてくれるでしょう。距離はドバイミレニアム、ドバウィ、そして自身とG1・ジャックルマロワ賞を父系3連覇の金字塔を樹立、前出ヌーアアルハワもフランス時代にジミーに同レース4着しているようにマイル近辺が断然良さそうです。