三度に及んだ巌流島決戦は無骨なイメージの武蔵フジノオーが
きらびやかな小次郎タカライジンを完膚なきまで打ちのめし、
天下無双の障害王の高みに不滅の輝きを放つことになります。
しかし物言わぬ馬が人間の勝手な思惑に振り回されるのが常。
コース改修によって障害の難易度が下がり飛越自慢の馬は
スピード勝負の馬に次第に太刀打ちできなくなります。
おまけに斤量苦が障害王の上に容赦なくのしかかります。
オープン戦では実に72キロという酷量を背負わされました。
5連覇の夢破れた大障害でフジノオーは68キロを課せられ、
勝ったミスハツクモは54キロ、実に14キロも差がありました。
それでも2着に踏ん張ったのだから強さは奥の深いものでした。

 

次々と外堀が埋められ苦悩する障害王に非情な追い打ちが。
当時の天皇賞と同じように一度勝った馬は出走権を剥奪される
勝ち抜け制が大障害にも適用されることになったのです。
万事休す、馬主の藤井一雄さんは遂に海外遠征を決意します。
競馬会の援助などない時代で丸々私費を投じての挑戦でした。
そしてフジノオーは今日までの歴史上、唯一の日本馬として
世界最高峰グランドナショナルの舞台に勇姿を現します。

 

でも現実は苛酷です。完走馬の方が少ないほど苛烈なコース、
フジノオーは第15障害でギブアップ、競走を中止しました。
ところが物語がこれで終わらないところが、王者のプライド、
藤井さんの馬主としての執念とフジノオーへの愛でした。
彼はイギリスを転戦、さらにフランスに渡り飛び続けます。
そして迎えた海外13戦目、アンギャンというパリ郊外の
ひなびた競馬場で遂に待望の初勝利を飾ってしまいます。
ハイレベルな海外の障害レースを勝つのは至難の技です。
たぶんフジノオーはこの分野では最初で最後の馬でしょうね。
何という凄い馬!何と凄まじい馬主さんの挑戦心!

 

フジノオーはこの後もフランスで1勝を上げて海外16戦2勝、
国内での20勝を合わせると通算障害22勝の生涯成績でした。
藤井さんも不二牧場を経営されて、古くは南関東全盛期の
強豪テツノカチドキで帝王賞を勝ち、最近の代表馬というと
女だてらに海外を飛び回っているハナズゴールでしょうか。
彼女がオーストラリアでG1を勝ったのも、藤井さん譲りの
逞しいチャレンジングスピリットが宿っていたから?

 

人間の都合に振り回され、失意の日々を送ることもあった
フジノオーですが、どんな不遇にも夢を諦めなかった
不屈の精神には頭の下がる思いで胸が一杯になります。
このフジノオーが駈けた中山大障害の晴れ舞台に初挑戦する
レッドキングダムですが、戦いは始まったばかりです。
ぜひ無事に飛んで来てください。